「16時間断食」は本当に体に良いの?断食(fasting)と腸内細菌について

※ここで紹介するデータ等は医学誌で発表されている論文をもとに個人の見解を述べたものであり、特定の健康法を推奨するものではありませんことを、予めご了承ください。本ブログには医師の監修はつけておりません。

「16時間断食」というのが流行っているようです。ここ最近、テレビでも、ネットニュースでも、美容院でも聞きました。

色々と方法はあるようですが、多くは16時間は胃腸を休めて、あとの8時間は何を食べても良い、というルールのようです。『16時間 根拠』と検索すると、細胞を生まれ変わらせる「オートファジー」が機能し始めるのが「16時間後」(特選街webより)など、様々な情報が出てきます。

とはいえ、なぜ「16時間」なのか、もう少し調べてみました。

断食(fasting)には昔から興味がありましたが、ダイエットというよりも、自分の身体と向き合って、胃腸をいたわるようなイメージを持っています。大腸にはたくさんの細菌が存在し、それは腸内細菌叢(お腹の中のお花畑)と呼ばれます。この腸内細菌叢は、ヒトの栄養代謝、防御機構、免疫機構の発達に大きく寄与していて1、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)は、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群、メタボリック症候群、癌、心血管疾患などに関連するとも言われています1,2。生きる上で非常に大事な働きをしてくれる腸内細菌叢は、日々の食事や生活環境で大きく変化するそうです1)

では、断続的な断食をすることで、この腸内細菌叢をリフレッシュすることができるのでしょうか。

中国に住むイスラム教のラマダン(夜明けから日没までの断食、約16時間)をする人々を対象に、30日間の断食後に腸内細菌叢の状況を調べた研究3では、平均年齢40歳の中年グループ27例で、腸内細菌叢の改善が見られ、肝酵素などの生理学的パラメータの数値も改善したことが報告されました。断食によって、腸内細菌の一つLachnospiraceae(ラクノスピラ)が増加しました。このラクノスピラの増加は、癌の発症抑制、炎症性腸疾患の改善やメンタルヘルスの改善、アトピー減少などに関連すると言われています3)。なお、断食を止めると腸内細菌叢の状態は元に戻ってしまったと報告されています。

では、断食時間は本当に16時間が最適なのでしょうか?

マウスの実験報告をご紹介します。Liら2)は、60匹の雄マウスを12時間、16時間、20時間の断食の3群と対照群(各群15匹)に分け、30日間断食させた後、続く30日間は自由な摂食をさせ、計60日間の観察結果を報告しました。マウスの糞便からのDNA(fecal DNA)を解析し、腸内細菌叢の状態を調べたところ、断食をした群では、腸内細菌叢の構成が有意に変化しました。16時間断食群では、Akkermansiaが増加し、Alistipesが減少しました。Akkermansiaの増加は代謝改善や腸の炎症の改善に寄与し、Alistipesの減少は腸の炎症を緩和させる可能性があるようです。こちらの研究でも、断食中止30日後には腸内細菌叢の変化は徐々に見られなくなったと報告されています。

断食期間中の累積摂食量は、16時間断食群、20時間断食群では有意に減少しましたが、12時間断食群では対照群(断食なし)と変わりありませんでした。断食中止後の累積摂食量は、20時間断食群で有意に増加しました。断食期間を経験したマウスは、食べ物を継続的に得られないことを学び、お腹いっぱいに詰め込むようになる傾向があると述べています。ヒトにも当てはまりそう・・・

この研究では、断続的な断食が腸内細菌叢を変化させること、16時間の断食群でその効果がより認められたこと、断食をするときには断食時間の長さを考慮したほうが良いと結論付けています。ただ、この実験ではサンプル数が少ないなどの限界もあることを知っておかなくてはなりません。

じつは6月1~2日に、48時間の断食をしてみました。その後、我が家は1日1食生活に突入。コロナの自粛生活で運動量が減っているのに1日3食は食べ過ぎではないか、ということで始まりました。「16時間断食」ならぬ「23時間断食」。上述の論文2編とも断食を止めると腸内細菌叢は元に戻るらしいので継続することが大切なのかもしれません。20時間断食マウスのように1回の食事でお腹いっぱい詰め込まないように注意が必要ですね。15日が経過した現在のところ割と楽に続けられています。

※夕食以外に1日1回の野菜ジュースとヨーグルト、適宜飲料と少量のおやつを摂取

  1. 馬場重樹ほか. 日本静脈結腸栄養学会雑誌 2018; 33(5): 1099-1104.
  2. Linghao L, et al. BMC Microbiology 2020; 20: 65.
  3. Su J, et al. Am J Clin Nutr 2021; 113: 1332-1342.